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朱実は起きてベッドに上がった。
静かな室内に金属の摩擦音が響く。
それでも紫己は目覚めない。
フットライトの薄明かりのなか、腹部辺りによれたシーツを右手でつかんでいる姿を捉えた。
眠っているとは思えないくらい、拳(コブシ)はしっかり握られていた。
「紫己」
声をかけると、紫己は瞬きをしながら状況を探るように視線をさまよわせ、やがて朱実に焦点を合わせた。
「なんだ」
紫己は睨めつけ、ぶっきらぼうに吐く。
「夢見てたみたいだから。……いつもの悪い夢?」
「いつも?」
「ごめんなさい……たまにそうかなって思うときある」
「意味のない謝罪をするな!」
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