5.一つしかない選択肢

27/31
前へ
/583ページ
次へ
朱実は起きてベッドに上がった。 静かな室内に金属の摩擦音が響く。 それでも紫己は目覚めない。 フットライトの薄明かりのなか、腹部辺りによれたシーツを右手でつかんでいる姿を捉えた。 眠っているとは思えないくらい、拳(コブシ)はしっかり握られていた。 「紫己」 声をかけると、紫己は瞬きをしながら状況を探るように視線をさまよわせ、やがて朱実に焦点を合わせた。 「なんだ」 紫己は睨めつけ、ぶっきらぼうに吐く。 「夢見てたみたいだから。……いつもの悪い夢?」 「いつも?」 「ごめんなさい……たまにそうかなって思うときある」 「意味のない謝罪をするな!」
/583ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1396人が本棚に入れています
本棚に追加