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「おれは……もう普通の愛し方がわからない。憎しみと愛の区別さえつかない。ただ、朱実と離れられない。母はそうやっておれから裏切られることをわかっていたかもしれない」
それは愛しているという告白にも聞こえた。
紫己は朱実のそうした期待をわかったうえで避けるように目を逸らした。
期待どおりだとしても、どうにもならないことは歴然で、紫己はそのしぐさのように朱実を避けるべきなのだ。
「おれは自分で自分の首を絞めてるんだ。桔平が云ったように、おれが付き合ったことのある女は、母の墓で見た朱実に似ていた。朱実を犯して……妊娠していないとわかったとき、縛る口実を奪われた。そんなふうに思ったこと自体が母を裏切っている」
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