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「そんなはずない」
「朱実は桔平から簡単におれに乗り換えた」
紫己はいま頃になってそんなことを責める。
「そうしたくて……そうしようと思って紫己を好きになったわけじゃない。表面だけ見るんじゃなくて紫己はマイナスなことを含めて内側まで覗かせてくれたから……気持ちは全然違うってもうわかってる。でも、紫己を愛してるから……」
だめなの、と最後までは云えなかった。
けれど。
「愛していても一緒にいられない理由はなんだ」
紫己はちゃんと察して喰いさがる。
「紫己に迷惑かけるから。わたしは紫己のお母さんを殺してる。世間の人はそう思ってなくても、殺人者の娘だってことまでなら調べればすぐわかるの」
「違う。だれも殺人者じゃない」
「最初に就職した会社はいられなくなった。紫己がそう思っても……!」
「おれは会社から完全に退く」
紫己は朱実をさえぎった。
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