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伝えたいことがうまく伝えられなくてもどかしい。感情のままに紡ぐ言葉はきっと、分かりにくくてきれいなものじゃないし、つっかえつっかえの要点がまとまっていない話はとても聞き苦しいものだろう。それでも、一生懸命に有馬が紡ぐ言葉を、酒田は静かに聞いていた。
「だから、その。…………うまく、言えないんすけど。俺は、酒田さんが言うように、自分がそういう思いを向けられても、気持ち悪いとは思わなかったです。や、実際にそうされた訳じゃないから、絶対に、とは言えないけど。でも、そういう感情より、俺は、酒田さんと一緒にいたいと思ったっていうか、今までと同じような関係でいたいと思ったというか。……すみません、なに言いたいのかわかんないっすよね」
自分の口下手さをごまかすように笑いながら最後に謝ると、酒田は静かに首を横に振った。
「ううん、そんなこと、ない。…………有馬くん。………………ありがと」
うっすらと目に涙の膜を張って、小さくはにかみながらそう言った酒田の表情に惹き込まれた。あまりにきれいなその光景に、目が、離せなくなりそうで。有馬は急いで目をそらした。遅れてじわりじわりと頬が熱を持っていく。
”なんで顔赤くしてんだ、落ち着け、俺……!”
「えっとその……そういうわけで!予定通り今日は俺、酒田さんのお店の手伝いしますから!すみません。俺が口下手だから、時間とっちゃって。美味しいご飯が、さめきっちゃうまえに食べましょう!」
「……そうだね。食べようか」
そんな同意の言葉と共に酒田が浮かべた笑顔は、昨日のような作り笑いではない、少し照れたような心からの笑顔に見えた。
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