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考え込むことで自然と下を向いていた視線をあげる。目の前には鮮やかな青と緑を背にして、こちらをじっと見つめる彼。何かを見定めるように有馬を見つめる瞳を見返しながら、どこかその色が深海の色に似ていると思った。深い深い、海の色。その瞳の奥に揺蕩う波を見出そうとしていると、ふいにその瞳が瞼に閉ざされた。
「……そんな風に真っ直ぐに思っていることを言葉にする人に、久しぶりに会いました」
溜息をつくようにそうこぼした彼の顔には、笑みが浮かんでいる。苦笑を浮かべる彼の言葉の続きをじっと待つ。
「この島にはどれくらい滞在する予定ですか?」
「今日から六泊七日、一週間の予定です」
「――――俺にも仕事があるので、毎日お付き合いすることはできませんが」
何か今、都合のいい言葉が聞こえた気がする。その言い方だと、まるで――――
「……付き合ってくれるんです、か?」
会って間もない見知らぬ男からの頼み。確かに本心からの言葉だったから言ったことに後悔はないけれど、十中八九断られるだろうと思っていた。だって、あまりにも唐突過ぎる。それなのに彼は微笑んだままゆっくりと頷いた。
「これも何かの縁ですかね。――たまには、羽目を外してみるのもいいかもしれない」
よろしくお願いします。そんな言葉と共に差し出された手。それを信じられない思いで握り返した。
「……ありがとうございます。こちらこそ、よろしくお願いします」
それが、有馬勇誠と酒田尚輝(さかたなおき)の出会いだった。
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