6日目

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 最後の客が帰って店じまいをして夕食をとって。先にどうぞと進められるがまま風呂に入り、湯船につかったところでやっと今日はり続けていた気を緩めることができた。思わずため息のようなものが出てしまう。 ”思ってたいじょうに俺、酒田さん見てたんだなぁ……” 何気ないしぐさ、表情。改めて酒田を暇さえあれば見つめていることを自覚した。気づけばその存在が必ずと言っていいほど自分の視界の中にいる。自分の言葉や動作によって、顔を赤くして照れる、あの人をかわいいと思う。その、理由は。 「…………はぁー……」 そんなはずはないと言い聞かせて。何かの間違いか気の迷いだと、目をそらし続けてきた。今までの自分が、同性に対して持つ感情ではなかったから。けれど、それももう限界に来ているようだった。だって、あの人のことを思うだけで、こんなにも鼓動が早鐘を打つ。 「やっぱ、そういうことなのか――――」 はじめて同性に抱く気持ちに、戸惑いも確かにある。けれど、そういった気持ちを抱いた自分に対して、そういった気持ちを向ける酒田に対して、嫌悪感やそれに近い感情を抱くことはなかった。そのことにほんの少しほっとした部分もある。 「…………」 こんな風に気持ちを自覚して。好きな相手に気持ちが悪いと拒絶されて。そんな過去を持ちながら、あんな風に笑うあの人は、今までどれほどの見えない傷を負ってきたのだろう。 ”……俺のこの思いは、あの人をまた傷つけてしまうんだろうか” まるでそうだよ、と肯定するようにぴちゃん、と湯船に一滴、水が髪から滴って落ちた。ずるずると背中からそこに沈み、鼻の下まで湯につかる。そのまま目を閉じた。瞼の裏に映るのは、近いはずなのに遠い存在。自分から触れてくるくせに、どこか一線を引いたような態度をとる。それは、恋愛をしない、という意思表示なのだろうか。だとしたら、この思いを告げたとしても、やんわりとした拒絶が返ってくるのだろうか。明日が終わってしまえば、もうこうして一緒にいることもできなくなる。ここは、有馬にとって非日常だ。有馬にとっても日常があって。だから、このままどれほど後ろ髪が引かれようとも、この地に残り続けることはできなくて。 ”わかんないです、酒田さん……” 寝不足の頭は、いつも以上に回ってくれない。考えるのを放棄するように、有馬は頭まで湯につかった。
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