7日目

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 有馬が島にいる、最後の日。いつものように朝6時ごろ階下に降りていけば、もう既に酒田が朝食の準備をしていた。有馬に気づくと、にこりと酒田が笑う。それだけで酒田の周りが華やいで見えて、あぁ本当に自分は酒田に恋をしているのだと思い知る。 「おはようございます、有馬君」 「おはようございます、酒田さん。……あれ、今日お店開けるんですっけ?」 こんな朝のやり取りをするのも今日で最後になる。それを淋しく思いながらそう尋ねると、なぜか酒田は少し怒ったような顔をした。 「俺、昨日、今日は店開けないっていいましたよね?」 「え、あ、はい。だからこんな早くに起きてるの、不思議に思ってたんすけど……」 そう言いながら有馬はさりげなく酒田から視線をそらした。なんだかしゃべればしゃべるほど、酒田の機嫌が傾いていっている気がする。 「昨日、おれは、何の話をしているときにその話をしましたか?」 「えーっとぉ……」 視界の端に酒田の姿をちらりと映したまま、少し焦り気味に昨日の会話を思い出す。あの時、何の話をしていただろう。 「――――――あ」 思わずと言ったように声を漏らし、酒田をまっすぐに見れば。今度は酒田の方が有馬の視線から逃げるように顔を背けた。その横顔は変わらず不機嫌そうだ。けれどその頬がじわりと赤みを帯びたのは、気のせいじゃない、はず。 「俺の、見送りのため、ですか……?」 「……一週間一緒に過ごしておきながら見送りにも来ないほど、俺って薄情な人間だと思ってたんですね有馬君って」 「いやあの、ちがくて……!」
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