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一週間。その間ずっと傍にいた。多少なりとも酒田の性格や人となりもわかってきた、つもりだった。だから元々、見送りがないとは思っていなかったけれど。こんなに、丸々時間を自分のために割いてくれるとは思っていなかったから。
「……なに、にやにやしてるんですか」
「いや、だって。店を休みにしてまで、俺の見送りしてくれるなんて。俺はただの旅人で、酒田さんにとっては、ちょっとした、人生におけるイレギュラーでしかないのに。……それなのに、酒田さんが俺のために、時間をさいてくれるから。嬉しいんですよ、俺。酒田さん」
嬉しさが抑えきれずに、作った料理を運ぼうとしていた酒田の手からそれをひょいっと奪う。なんならそのままくるくると踊りだしてしまいたいくらいだった。
「え、ちょっ……有馬君!?」
おどろいて自分を見上げてくる酒田に有馬は心からの笑みを向けた。
「ね、酒田さん、今日俺がこの島を離れるまで。それまでの酒田さんの時間、俺にください。ちなみに、この料理は人質です。イエスの答えじゃなかったら、俺が全部いただきます!」
おどけたように突然そう言った有馬を、酒田はぽかんと見つめた。そして苦笑を浮かべる。
「いや、人質とか意味わかんないし……」
「質問の答え以外うけつけませーん」
「っはは、もう。……仕方ないなぁ」
ゆっくりと苦笑を、楽し気な笑みへと変えて。
「いいよ。――――今日は一緒にいようか、有馬君」
ほんの少し、先ほどの名残か頬を染めたままそう言った酒田はの微笑みは。それはもう時や場所を選ばずに押し倒してしまいたくなるほどに、有馬の心を打ちぬいたのだった。
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