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朝食を終え、部屋に戻り一人で残った荷物をまとめる。元々普段から細々片付けるようにしているから、移動の当日になって慌てるようなこともない。旅を良くする有馬にとって、手慣れた作業。だからか、手を動かしながら、思考がついつい酒田のことへと流れてしまう。しばらく無表情に黙々と手を動かした後、有馬は大きくため息をついてベッドに上半身を投げ出した。
「あ――――……よく耐えた、俺……」
瞼の裏に焼き付いているのは、さっき見た酒田の笑顔。押し倒さずに、理性を総動員して我慢したあの時の自分を本当に褒めてやりたいと思う。相手の気持ちを確かめるどころか、自分の気持ちを伝えていない今の状態で、欲望のままにその体を貪るなんてことは絶対にしてはいけないことだ。そう、わかっているし相手の意思を踏みにじることなんてしたくない、とも思うのに。――――その一方で、あのまま欲に身を任せたらどうなっていただろうと想像してしまう自分もいるのだ。あの細く綺麗な手を頭上に縫い留め、あの赤い舌をからめとり。透き通った白魚のような肌をなぞり、売れた果実のように頬を染め、うるんだ瞳を向けるあの人の、秘められた場所へと手を――――。
「――――ああああああっ!?」
そこまで妄想し、はっと今の自分の状態を確認して有馬はその場に崩れ落ちた。うなだれた視線の先のそこは、やんわりと反応を示してしまっていた。好きな相手の乱れる姿を頭に思い描いていたのだから、それは当然の反応なのだけれども。同じ男のモノをこうも簡単に想像できてしまって、なおかつそれに興奮する自分に、嫌悪はしないけれどもなんとも言えない気持ちになる。
”いやまぁもちろん、相手が酒田さんだからなんだけどな”
他の男だったら興奮どころか完全に萎える自信がある。相手が、酒田だから。心につられて、体が反応する。きっと、なにもかもがこれからなのに。じっと、壁にかけられた時計を見つめる。思いとは裏腹に、もう一緒にいられる時間は残り数時間に迫っていた。
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