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「あー……そろそろ、行かないとな……」
体が元の状態に落ち着くのを待って、荷物を全て来た時のようにまとめて、それをもってドアを開けて。そこで有馬は部屋を振り返る。一週間過ごした、酒田の部屋。その部屋の机の上に、一つだけ置いた贈り物。それを最後にもう一度だけ確認して、酒田のいる一階へと向かった。
「あ、有馬君。ちょうどよかった、いったい今日どうするのかと思って。今聞きに行こうとしてたんです」
どうやら酒田も有馬のところへと向かおうとしてくれていたらしい。単なる偶然。それなのに、思いが通じ合っているようで心が温かくなる。それが都合のいい思い込みだとはわかっているけれど。
「よかった、俺もちょうど酒田さんのとこに行こうとしてたんです」
近くまで近づいて酒田も有馬が全ての荷物を持っていることに気づいたのか、ほんの少し表情を陰らせた。
「あ……そう言えば俺、有馬君が出発する時間聞いてなかったですね。……もう、時間なんですか?」
嬉しい言葉に小さく笑みをこぼす。
「いえ、まだあと2時間くらいはありますよ。これは、そう言うことじゃなくて。……俺今日の朝言ったじゃないですか、酒田さんの今日の時間を俺にくださいって」
「確かに言ってましたけど……」
「俺、最後に行きたいところがあるんです。そこに、酒田さんと一緒に行きたいんです。……最後に、付き合ってくれますか?」
行く場所を告げることなく、ただ静かに右手を差し出す。酒田はそれをじっと見つめしばらくためらった後、有馬の手には自分の手を重ねた。
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