7日目

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 「――――なんて、大げさにいうから一体どこに行くのかと思ったら」 「っはは、ここで拍子抜けしました?」 有馬と酒田が手をつないで向かったのは、二人がはじめて出会った場所、人知れず丘の上にある、展望台だった。急な斜面を登りきった先には、出会った日を再現するかのように青い海が日の光を反射しながら広がっている。違うのは、目の前に酒田の姿はなく。一緒に手をつないで、ここへ来たことだけ。 「っはー、やっぱりここの景色が、一番きれいっすねー」 重い荷物のせいか、少し上がってしまった息を整えるために大きく深呼吸する。海からくる潮風がうっすらと汗をかいた体に気持ちがいい。 「ちょっと、来るまでに一苦労なんですけどね」 酒田が繋いでいた手を離して、数歩海の方へと歩いていく。海風でなびく髪を抑えながら、目を細めて海を眺める姿はとても美しかった。 「……俺、この島に来ていろんなところに行きましたけど。この場所が、一番好きです」 「……ほんとですか、それは、嬉しいなぁ」 あなたに出会えた、場所だから。そんな理由を続けて言葉にすることはできなかった。嬉しさや淋しさや、いろんな感情が混じった笑顔になり損ねたような表情を、酒田が浮かべているのが一瞬だけ見えたから。思うよりも先に、体が動いた。持っていた荷物も何もかもをその場に放り出して、有馬はその体を力いっぱい引き寄せて、腕の中に閉じ込めた。抱き締めたいと、感触を何度も想像した酒田の体は、思っていたよりも細くない。女性のようにやわらかくもない。けれどそれは確かに、有馬が焦がれた人の体で。それが己の腕の中にあるということに、言葉にできない衝動が湧き上がってきて。それに身を任せるようにして、酒田の体を強く抱きしめた。 「え、あの……っ、ありま、くん!?」 最初はどうすればいいのかわからず戸惑っていたようだけれど、有馬が何も言わずただ酒田を抱きしめていると、酒田はおずおずと有馬の背に自分の手を回した。耳を掠めていくのは、自然の音、そして互いの心臓の音だけ。誰の眼もない場所で言葉もなく、ただ互いの熱を感じる。徐々に力を抜いていくと、酒田がそっとその身を離した。そのまま触れることすらできない距離まで離れてしまおうとする酒田を、その手首をぐっとつかむことで引き留める。伝えたいことがあるから。そのために、この場所に来たのだから。
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