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「……それでも、俺は俺の思いを口にできない。どんなに信じたくても、人の思いはやっぱり怖いから。だから――――」
ぱしりと、酒田の言葉を遮るように、さっきとは逆に今度は有馬が手のひらで酒田の口をふさいだ。
「まって。まだ。……まだ、今はその先を言わないでください」
酒田がそのまま口をふさいだのを確認して、手のひらに残る柔らかな感触を名残惜しく思いながら、唇から手を離す。
「答えはまだ、いりません」
「でも、有馬君は今日……」
「はい。俺は今日、この島を離れます。俺は、この島の人間じゃないから。ここにずっといることはできない。……でも、またここに来ちゃだめだってことは、ないでしょう?」
そう言うと、酒田は涙の残る目をゆっくりと見開いた。ぽろりと、目の端から零れ落ちたそれを優しく指ではらう。
「また、次の休み……そうだな、3月に。眠りから目を覚まして、草花がゆっくりと目を覚ます頃に、また、あなたに会いに来ます。……だから、それまで待ってもらえませんか」
「…………いや、だ。そうやって、待って、それでもしも――――」
それっきり、酒田は口を閉ざした。もしも、離れている間に有馬の気持ちが酒田から離れてしまったら、と思っているのかもしれない。そうなったとき、またつらい思いをするのは酒田だ。そして、それは全くない可能性ではない、とも酒田は思っているのだろう。
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