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互いの顔の前にあるのは、相手の手の甲。握った手を酒田に近づけるとともに、有馬もその手に顔を近づけていく。何をされるのか察したのか、さっと顔を赤く染め、しばらくためらった後にきゅっと酒田は目をつむった。それとほぼ同時に互いの唇がそれぞれの手に触れる。手の甲を挟んだ、間接的なキス。そっと、どちらからともなく唇を離し、手をほどいた。
「……不安なのは、酒田さんだけじゃないっす。俺だって、怖いです。……誰に恋をしても、どれ一つとして、同じことはないから。だから、ちょっとしたおまじない、です。不安になったら、思いだしてくださいね」
「…………有馬君、やってて恥ずかしくないですか?」
「ちょっ……恥ずかしいに決まってるじゃないですか改めて指摘しないでくださいよ……」
そんな、いつものような会話にいつものように笑い合って。それが自然なことのように、二人はそっと、互いから離れた。
「それじゃ、また。半年後、ここで会いましょう」
「……はい、半年後に」
最後に交わした言葉はそれだけ。ただ笑って、有馬は酒田をそこに残し展望台を後にした。いろんなことがあったこの一週間の出来事ひとつひとつを、鮮やかに刻んだ記憶と一つの約束を大切にもったまま。有馬はその日、昼過ぎに酒田と出会った島を後にした。
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