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結局、この島に滞在する期間は酒田の家にお邪魔することになった。夕方になって連れていかれたのは一階部分をカフェにしている一軒家だった。
「一階が俺がやってるカフェで、二階が住居スペースになってるんです。どうぞ」
カフェとは反対側の入り口から中へ招き入れられる。入り口のすぐそばに、階上へと上がる階段があった。それを酒田に続いて上りながら口を開く。
「……カフェは、いつ営業してるんですか?」
「実は、定休日は決まってないんです。いつも人が来るときは開けるし、来ない時は今日みたいにお休みになる。人が少なくて、しかも観光客の方以外はみんな知り合いだからそれで成り立つんですよ」
「なんか、そういうのっていいですよね」
島に住む人々が持つ、アットホームな空気。隣の家の人、もしくは親さえも他人のように感じるような環境で育った有馬にとって、それは憧れにも似たものを感じさせた。
「そうですね。この島に住む人みんなが、家族のようなものですから。もうとっくに成人してるのに、島のご老人たちからしたら俺も小さな子供のように思われてますし。それが……ほんの少しくすぐったくて、恥ずかしくて。でも、やっぱりうれしいんですよね」
そう言ったときの酒田の眼差しはとても柔らかなものだった。本当にこの島が好きなんだと、言葉がなくても伝わってくる。階段を上りきった先にあったとある部屋のドアを酒田が開けた。
「よければこの部屋を使ってください。一応、客間のようなところだし、少し散らかってますが他の部屋に比べると綺麗にしてあるので」
酒田は散らかっているといったけれど、有馬の眼から見ればどこも散らかっていないように見える。ホテルなどの人の生活感が感じられない部屋とは違い、ほんのりそこに人の気配がある部屋。他人の家なのに、我が家のような安心感があった。少し荷物のおかれた、八畳の部屋。畳の感触に変に心が躍る。
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