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「別に俺、有馬君がここを田舎って言っても今まで怒ってないじゃないですか。勝手にまずいと勘違いして焦り始めたのは有馬君ですよ」
その言葉にここに来てからの一連の会話を思い返して、何も言い返せなかった。確かに、勝手に焦り始めたのは自分だった。自分の馬鹿さ加減に軽くショックを受けていると、またころころと酒田は笑った。
「有馬君って多分、嘘つけない人でしょう?」
「……俺だって嘘くらいつきますよ」
「んん、言い方が悪かったかな。嘘はつけるけど、罪悪感が抜けなくてすぐにばれてしまう人、というのが正しいかな。……違います?」
あまりにもそれが当たってい過ぎて、有馬は沈黙を返した。酒田が言う通り、どうしても、必要な嘘であったとしても、嘘をつくというだけで変な罪悪感が胸に宿るのだ。
「正直な人なんですね、有馬君は。それからきっと、優しい人だと思います。まだ出会って間もないから、そんな風に決めつけるのは時期尚早ですけど。でも、こうして家に泊めてもいいかな、と思う程度には俺、有馬君のこと信頼してるんです。だから、有馬君が悪い意味でここを田舎って言ったとは思ってないですよ」
「……ならあんなに笑わないでほしかったですよ」
「ふふ、すみません」
会って間もない、けれど好感を持っている酒田からそんなことを言われて、むずがゆくて。照れ隠しのようにそう言った有馬の心境をわかっているとでもいうように、酒田は穏やかに笑っていた。
「酒田さん、お願い聞いてもらってありがとうございます。……改めてよろしくお願いします」
「こちらこそ。一週間よろしくおねがいしますね、有馬君」
そうして交わした握手で初めて握った彼の手は、少し温度の低い手だった。
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