0人が本棚に入れています
本棚に追加
たまには外に出なさいと医者に言われ、車椅子に座り病院の庭に出た。陽の光は眩しすぎて私は景色を見られなかった。
「ねぇ、お姉ちゃんどうしたの?」
そんな声が聞こえ、私はふと正気に戻る。子供の声はよく通り印象的だった。
「ぁ……あ……私は……?」
何年かぶりに声を出した気がする。看護師さんも驚いていた記憶がある。その声は弱く、掠れていた。それでも数年ぶりに正気に戻った気がした。
「あ、あ……父さん、母さん……ここはどこ……? 私は誰……?」
頭のなかは真っ白で、当時の記憶がフラッシュバックする。ぐるぐると回るのは泣いている母さんと、吊り下がっているもの。そして目の前は真っ赤に染まり、子供の顔までもが崩れていく。
――――あぁ、崩れているのは景色ではなく、私の方だ。
車椅子から前のめりに崩れ、私は数年眠り続けた。
最初のコメントを投稿しよう!