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スニーカーを履き直していると、社長夫人が私の背後まで近付いてきてポツリと言った。
「あの・・・、坂口さん・・でしたわよね。」
振り返ると、夫人が胸前で細い指先を組みサンタ姿の俺をじっと見つめていた。
彼女のその立ち姿を見た瞬間、高校三年生の時に転校してしまった初恋の彼女であることを悟った。
校門前、クラス全員で見送ったあの時、君は同じ仕草で俺を見つめていた。
「いえ・・・、人違いです。」
白い吐息で凍える両手を温めると、しっかりと縄梯子を掴む。
一歩一歩踏みしめながら煙突の中を登って行く。
頬に冷たいものを感じてふと見上げると、煙突の先の四角く切り取った闇から真っ白な雪が舞い落ちる。
明日、会社に辞表を出そう。俺はそう心に誓った。
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