3486人が本棚に入れています
本棚に追加
白い壁は光が当たる度に乱反射し、眩しい。
少なくとも漓朱の十倍はある頑丈そうな門がゆっくり、ゆっくりと開いた。
「お帰りなさいませ、主様……って、あれれっ? 誰ですかその娘」
「此度の贄とされた娘だ。……良いから通せ」
「えっ!? 主様、主様が!? これは大変だっ、契約の準備をしてこなきゃっ」
ぱたぱたぱたと慌ただしく屋敷に戻り、侍女に何やら指示を出す翠(みどり)掛かった髪の、十八、九くらいに見える少年。
やれやれと云った風に息を吐いた男は、乱暴に漓朱の腕を引いて行く。
だが漓朱はそれ処ではない。彼女の紅色の眸は驚倒したように開かれっぱなしだ。
――あれ、は角……?
屋敷の中の者全てに、今は絶滅した鹿と呼ばれていた生物のような角が生えているのだ、仕方がないだろう。
――もしかして、この人にも……?
最初のコメントを投稿しよう!