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ぽん、ぽぽぽん。
鼓の音が澄んだ空気を大きく震わせ、夜の森に響く。辺りを照らすのは提灯の火のみで視界はとても悪く、日が落ちている事もあり肌寒くて少女はぶるりと身を震わせた。
――どうして、どうして私が……。
シャラン。彼女の艶やかな黒髪に挿された金の簪が、哀し気に揺れた。
ぴーい。
獣が出そうな場に笛の音が轟き、彼女が乗っている輿を担いでいる男達の肌に染み込んでゆく。罪悪感に呑み込まれないよう、彼等はきゅっと下唇を噛み締めた。
今日は良く月が出ている。
淡い月光が沙のように流れ落ち、珠のような彼女の肌を神々しく照らしだした。誰の足跡も許してはいない雪のように清らかで、やわらかそうである。
――嫌だ、嫌よ……。
ガタゴトと揺れる神輿のように豪華な輿の上で、麗しい少女は唇を噛み締める。長い睫毛が影を作り、僅かに寄っている形の良い眉が彼女を切なくみせた。
びいどろを嵌め込んだのかと思うほど澄んだ大きな眸に浮かぶ、涙の珠。限界まで溜め込まれたそれは、今にでも流れ落ちてしまいそうだ。
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