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「我の所有物を他の者どもが触れるのは好かない」
何て我が儘な人なのだろうと、漓朱は呆れにも似た様な感情を抱き、小さな溜息を吐いた。
そんな様子の漓朱には気付かず、驪珀はぽつりと呟く。
「……そなたは哀れだな」
それは生贄として捧げられたからなのか、此処に連れて来られたからなのか……。
「……っ」
不意に撫でられる美しい濡れ羽色の髪。愛しい者にするそれと変わらぬ優しい手付きに、漓朱は見る見る内に頬を染め上げた。
だが、その気持ちは直ぐに冷めて行く。驪珀が漓朱の華奢な首を、徐(おもむ)ろに掴んだからだ。
只でさえ全身が痛く息も絶え絶えだというにも拘らず、だ。
「我は人が嫌いだ。……故に、そなたの吐いた息すらも腹立たしい」
憎悪の籠った切れ長な眸。美しい顔立ちだからか余計に恐ろしく見え、漓朱は恐怖に身を固めた。
目に見えない糸がピンと張り巡らされているのかと錯覚させる程に、空気が重く張り詰めている。
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