四つの国

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「やはりその……痛い、ですよね……?」 「漓朱様は逃げたりする様なお莫迦さんじゃないと思うのに、主様ったら……」 しゅんと肩を落とした少女は蘭華(らんか)。パールブルーの髪は腰よりも長く、潤んだ琥珀色の眸は何とも言えない程に愛らしい。 一方で、腰に手を当て唇を尖らせている少女はその口調に合った気の強そうな猫目の、黄金色の短い髪を不満気に揺らし鼻を鳴らす。 「漓朱様、主様に文句を言ってはどうです?」 「星羅(せいら)、気持ちは嬉しいけれど私は……。それよりも、用意をしなくても良いのですか?」 漓朱の言葉に二人は顔を青くさせ、慌てて道具を取りに行く。 ーー今日は漓朱が供物とされた日から丁度一ヶ月。 驪珀は宣言通り、一月此処に帰って来てはいない。なので、漓朱はこの世界の事を余り知れていない。 神々の住まう世界であり、自分の世話をしてくれているのは人ならざる者だとは解ってはいるが……。 きっと蘭華と星羅は此処について話すなと、驪珀に釘を刺されていたのだろう。 普通に口は利いてくれるし、こうして身の周りの世話をし他愛無い話もしてくれ、更には今の様に漓朱を大切に扱ってくれている。 しかし、漓朱がこの世界について訊ねた時だけは決まって二人とも黙りと口を噤んでしまっていたのだ。
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