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「付いて来い。……そなたはまだ、朝餉を取ってはいないのだろう?」
只の気紛れで生かしただけの、美しい少女。神々は美しいものならば何でも好きなのだが、驪珀は人が嫌いだから人で美しい者がいても美しいとは思えず心惹かれた事はなかった。
だから麗しい女が捧げられたとしても、持ち帰った事はなかったのに……何故己は素直に漓朱の事だけは“美しい”と思えたのだろうか。
「…………」
振り返りもせず出て行こうとしたのにも拘らず、何となく後ろ髪が引かれ漓朱に視線を送った驪珀は、痛みに顔を歪めながらも立ち上がろうとする彼女に軽く目を瞠った。
ーーまだ背中が痛かったのか。
儚い。もうとっくに痛みなど引いていると思っていた驪珀は、自分達と違い過ぎる躯のつくりに溜息を吐き出した。
「え、あの……」
「黙れ」
ふわりと漓朱を抱き抱えた驪珀。痛みを与えない様気を遣いながら支え、何事も無かったかの様に歩き出す。
お姫様抱っこをされた漓朱は恥ずかしくて、思わず驪珀の胸に顔を埋めた。
恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい。体温が上昇し、全身真っ赤になっているのではと思う程で、目に涙が浮かんで来た。
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