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何時もと変わらない口調。漓朱は何を言われるのだろうかと、表情を強張らせた。
供物は道具。主人は道具の気持ちなどどうでも良いだろうから、酷い仕打ちも心痛めずに出来るだろう。
けれど漓朱は、驪珀はきっとそんな事はしないだろうと思っている。どうでも良い、関心が無い、生き物として見ていない。
もしそうであるならば痛みに眉を顰めた自分を、驪珀は苛立ちを隠さずに乱暴な扱いをして来ただろうから。
淡々な物言いから恐ろしさを感じ怯んでしまうが、漓朱は驪珀の心根の優しさに気付いていた。
自惚れか。だがそれでも構わないと、漓朱は考えているのだが……それは立前にしか過ぎないのだろう。
彼の優しさを信じたい……? それは知らない土地に来て、一人であるのが寂しく、また、初めにあんな発言をされたが故に良い方に考えたいという逃げでしかないのではなかろうか。
だからこそ今心臓が跳ね、強張ってしまっているのでは無いだろうか。
「……はい」
動揺している事を悟られない様に努めて冷静な口調で返事をした漓朱。驪珀に気取られてはいない。
落ち着こうとして深く息を吸った漓朱は、ふとある事に気が付き、目の前を歩いている驪珀に訊ねようかどうか考え込んだ。
そうして意を決し話し掛けようとした時に限って食堂に着いてしまい、余りの間の悪さに彼女は肩を落とした。
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