3489人が本棚に入れています
本棚に追加
しゃらん、しゃらん。
鈴の音が張り詰めた空気を裂き、全ての音がピタリと止まった。
着いたんだ……。
少女は金銀の糸で刺繍(ししゅう)された真紅の着物をぎゅっと掴み、下げていた視線を上げる。
「では、我々は此処で。……すまない」
皆、彼女と目を合わせない。
自分の娘じゃなくて良かったと、そう思っているからだ。
そそくさと去って行く彼等を見送り、少女はゆっくりと天に向かって腕を伸ばした。
「……月、綺麗……最期に見る月が真ん丸で良かった」
私は今から死ぬ。
神……? ふふっ、神が私を迎えに来るなんて笑える。
獣が格好の餌食である私を喰らいに来るだけじゃない。
少女の口元に自嘲的な笑みが湛(たた)えられた。
最初のコメントを投稿しよう!