四つの国

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今驪珀を莫迦呼ばわりしたのは琉貴だ。噂をすれば影がさすとはこの事だろう。 両手を交互に動かしポカポカと驪珀の肩を叩く琉貴に、漓朱は目を丸くして息を飲む。 ーーあんな事して、大丈夫なのでしょうか? 驪珀の雷が落ちないか心配になり、漓朱は席に着けないまま黙って事の成り行きを見守る。 ぎゃーぎゃー騒いで文句を言っている琉貴は、欲しい物を与えて貰えなかった子供みたいで凄まじい。 「一ヶ月人間の庇護をして来て疲れてるんですよ!? 主様も俺と同じですが……少しは労って頂きたいものです!」 莫迦莫迦莫迦とこうも耳元で騒がれるのは流石に我慢の限界で、驪珀はテーブルに己の拳を強く振り下ろした。 「黙れ、そなたは本当に煩い……!」 怒声を上げた驪珀から放たれる怒気は肌を侵食し、ぴりぴりと電流を浴びているかのような錯覚を生む。 漓朱はやはりそうなったかと耳を塞ぎ、深い溜息を吐き出した。そんな彼女の耳に、驪珀の怒りを完全に無視した琉貴の暢気な声が届く。 「あっ、この間の人間の子! 主様に殺されてなかったんだね、良かったあ」 笑顔で物騒な事を言う琉貴に漓朱は反応に困り、苦笑いするしかなかった。そして彼女の目には今、鋭い眼光を放っている驪珀が映っている。
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