四つの国

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彼女の知りたいと思う気持ちは、どうやら恐怖に勝るようだ。こういう人らしい感情は本来なら好かないし、腸が煮えくり返る思いで一杯になっていたのに漓朱に対しては何故かならない。 きっと、この眸の所為だと驪珀は思う。血のように紅い、見た目に反し意志の強い眸。人の研究により出来上がった、自然界では有り得ない劣勢の色。 アルビノでもない、只人が色々な色の眸が欲しかっただけで作られた物。人嫌いの驪珀にとって忌々しいだけの産物な筈なのに、漓朱の眸に宿る炎がそれを打ち消す程興味深かったのだ。 「話は終わりだ。……我は寝る」 これ以上教えてやるつもりはない。拒絶の意を漓朱に伝えた驪珀は、疲れが溜まり限界が来ている躯で彼女をベッドに引き摺り込む。 「……っ、驪珀、私は自分の部屋に」 「あれは別にそなたに与えた訳ではない。……我が帰って来ているのだから、我の傍に置いておくのは当然だろう」 人の力で殺せやしないし、危害を与えようものならば殺されると解っている漓朱が、自分に刃を立てる事などないと知っている驪珀。 逞しい腕に閉じ込められた漓朱は困惑し、反射的に高鳴る胸と緊張から強張る躯に、頭の中が真っ白になった。 「これからは、毎日……我が飽きる、まで……」 規則正しい呼吸が聞こえて来た。余りにも早い寝付きに驚いて驪珀の顔を見た漓朱は、寝ても尚眉間に皺が寄っている姿に小さく笑い、皺を取るべく指先で触れる。 この人は良い人なのか悪い人なのか解らない。漓朱は暫く寝顔を見詰めた後、つられる様にして重たくなった瞼を下ろし眠りに就いたーー。
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