四人の王

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「あれが此度我が連れ帰った供物だ」 三人の眼光が漓朱に突き刺さる。広間に入りたく無いと、膝が笑い出しそうだ。煩く暴れ回る心の臓に堪える様に下唇を噛み締め、彼女は皆から見えない様に拳を強く握った。 落ち着け、落ち着けーー。鼻から大きく息を吸い、転ばない様に足元を気に掛けながらも凛と進む姿に黄呀国の王は興味深そうに顎に手を置く。 彼の短い燃える様に赤い髪が、楽し気に揺れた。大きな獣を思わせる獰猛な黄金色の眸は、一つの動きも逃さぬと言わんばかりに細められ、恐ろしい。 ごくりと唾を飲み込み、それでも尚真っ直ぐと前を見据え漓朱は一歩一歩着実に進む。後ろに居た筈の琉貴が、何時の間にか消えていた。そう言えば、側近の姿が一つもない。 「……碧禮国の王よ、お前はああいうのが好みなのか?」 白い軍服姿の黄呀国の王は興味深そうに問い掛けた。長い前髪が落ちて来ないよう後方に全て撫で上げられている髪型は、誇り高い獅子の様だ。 「さあな。……只の気紛れで連れて来ただけだ、余計な詮索はしないで頂きたい」 「ほお……まあ良い」 漓朱が驪珀の前に着いた。美しい所作で腰を下ろし三つ指を立て深く頭を下げた彼女は、黙って驪珀の言葉を待つ。 王達との距離が近い。息苦しい程威厳に満ち満ちている彼等に、畏縮するしかない。今直ぐにでも躯が震え出してしまいそうだ。 必死に平静を保とうと口内を噛み、痛みで躯に言う事を聞かせようとしている漓朱に驪珀は気が付いて、ゆるりと王三人に向き直った。
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