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のそのそと姿を現した犬型の獣に、少女は悲鳴にならない声を上げる。
食べられる――。
狙いを定め飛び掛かって来る獣。
「…………っ」
少女が覚悟を決め強く目を閉じた時、空を裂く奇妙な音が響いた。
「ぎゃっ」
「逃がさぬ」
獣が驚いて、来た道を引き返そうとする音と、良く通る冷たい声が少女の耳に届く。
また、空を裂く音がした。
それに続いてびしゃりと嫌な音が空気を侵食し、鉄さびた匂いが漂(ただよ)う。
恐る恐る瞼を上げ、目を瞠(みは)る少女。
「そなたが我への供物か……?」
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