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じゃらり。鎖を掴み、男は紙切れのように引き千切った。
少女はその人間離れした力に驚き、息を呑んで男の湖のように澄んだ青い眸を覗いた。
「……そなた、名は何と申すのだ?」
「何故名乗らなければならないんです?」
「我のものだからだ。……名は古来から人を縛る」
「ならば名乗りたくありません。……私は、私は帰りたいんです」
きっと強い眸で睨み付けた彼女に、男は獣のように情の籠(こも)っていない目を向けた。
氷のような眸に怯えたのか、草木がざわざわと揺れる。
「そなたを帰すつもりはない。……皆を殺したいのなら構わぬが」
「何故そうなるんです!?」
「我は龍神。そなたらが祀(まつ)っている神だ。……加護のない土地は直ぐに荒れ妖や獣が蔓延(はびこ)る」
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