仏壇の前で

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父が亡くなってからは、父の家と我が家を往復の毎日、息子を一人で育てている私にとっては、少しの時間も惜しいほど、忙しさに追われていた。そんな忙しさに私は少し感謝していた。父の死を間の辺りにしていたら、きっと、しばらく立ち直る事なんて出来なかったから。 49日も過ぎ、ようやく時間が緩やかに過ぎようとした頃から、私は父の死を実感するようになった。いつもなら逢いたい時に家に行けば父に逢えたが、今は何処を探しても貴方はいない。父のいない家の仏壇の前で、父の笑った写真を見つめながら、私は毎日毎日泣いた。父が何処かで見てるかもしれない、前を向いて笑っていよう、と自分にいい聞かせながらも、私は父の面影を探し、父の写真が飾ってある仏壇の前で、何を言うでもない、涙が溢れるばかりだった。毎日の当たり前の生活の中に父がいない…。いつも笑顔で手を振ってくれた父の姿が、土手の上にきても見えない。この気持ちをどう表現しよう…。私のたった一度の人生、これからまだ先の長い人生に何故父がいないのだろう。私はそんな事ばかり考えていた。今でもそんな気持ちに対する答えは見付かっていない。 『逢いたい』『逢いたいのに何故いない?』 そんな気持ちに問掛けながら、仏壇の前の私は、いつも笑顔の父の写真を眺めていた。
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