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「な、何?」
風が止むなりそう言ったのは、君が突然笑顔になったから。
その笑顔に何だか慌てて、それでそう言ってしまったのだけれど、君はすぐには答えてくれず、そのことにより焦って、
「ど、どこかおかしい?」
そう尋ねた直後、思いだした。
君が声を失っていたことを。
けれど、いや、とすぐに否定する。
だって、僕がこの部屋に入ったのは君の声を聞いたからだったから。
本当は、まず尋ねるべきはそのことだったのに、つい風を受けた君の姿に見入ってしまってすっかり忘れていた。
尋ね直そうかと考え始め、でもその決断をする前に、おもむろに君が口を開いた。
「私は声を失っていない。ただ話さなかっただけ」
凛とした、それでいてどこかやわらかでもある声が君の口から出てきたことに驚いて、そしてその声が言ってきたことにも驚き、気がつけば僕は尋ねていた。
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