片翼の君に

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  *  まだ僕たちに飛ぶ力があった頃、僕たちの王は世界の中で最も高い山のてっぺんに建てられた城で暮らしていた。  天上に住まう神さまに少しでも近い場所にと、城がそこに建てられたのはそういう理由からだったけれど、飛ぶ力を失ったいま、王はその城に暮らしていない。  いまの王が暮らすのは、飛べない体でも周りとの行き来が楽にできる平坦な場所に建てた新たな城。  それゆえに古き城は住む者を失くし、けれどそれは一時のこと。やがてその城に暮らす者が現れた。  それは、片翼であったり、翼の形が歪(いびつ)だったり、翼の長さが足りなかったりと、そんな不完全な形で生まれた者たち。  それから、不完全な形をした者を許容する者も、その城で暮らし始めた。  ただそれは、前者にしても後者にしても自ら望んでそうしたわけじゃない。  強要されたんだ。  彼らの存在を許容できない多くの仲間たちによって。  だからいまではだれも足を向けないその城での暮らしを彼らはするしかなかった。  ゆえに、かつて王の住まいであったそこは、いまは牢。  だれもはっきりとそう言わないけれど、つまりはそうなんだ。
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