片翼の君に

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 去年の春のことだ。その牢に僕は出向き、もうすぐ一年。  その一年の間、僕はその牢で暮らした。  そうして牢で暮らす者の見張り役兼世話係をしてきた。  持ち回りの役目であるその期間は一年。  だからもうすぐ終わる。  普通なら、ようやく終わるか、やれやれだと思う頃だろうけど、僕は違った。  君と離れなければならない。  そう思うと、心は暗くなった。  君は、翼のひとつを失って生まれたために牢に入れられた。  ただ実は、君が失っていたものは翼だけではなく、翼と違ってそれは生まれつきではなかったらしいけれど、君は声も失っていた。  それゆえに君は、牢の中で暮らす者たちの中でも更に異端だった。  不完全な形で生まれたにしても、不完全なものはひとつきり。  これまではそうで、君のように片翼で且つ声も失っているなんて、そんな風にふたつのものを欠いた者はいなかったから。
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