片翼の君に

8/28
前へ
/28ページ
次へ
 だけどさすがに、君の部屋には立ち入れない。  牢の中でも最も高い、塔の先端にある君の部屋は、見回りでその前を通るくらい。  なのにその夜、僕は君の部屋に入った。  いつものように見回りで通りかかったとき、僕の名前を呼ぶ声が扉越しに聞こえて。  その声のあとに、話があるから入ってとの声が続いた。  驚きで震える手で僕は扉の鍵を開けた。  部屋に入れば、部屋の奥に君がいた。  開け放った窓を背に、部屋に入って来た僕をその青い瞳でじっと見てきた。  そんな君の後ろには、皓皓とした白い光を放つ月が浮かぶ暗い空が――神さまが在(おわ)す場所であるそこが、見えていた。
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加