主よ、御許に近づかん

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魔族との戦乱の中 主天使の群れから外れ 魔族のただ中に孤立した私は 死ぬはずだったのでございます やはり私など、主天使の地位は身の丈に足らなんだのか、と 手首から折れてしまった己の手を見つめ 他の主天使らに追い付けずに砕けた己の翼を仰ぎ 同時に 主を呪いました 何故私を助けてくれぬのか 全知全能たる身であれば 容易くできるであろう事象を、何故見過ごすのか… 私の努力は何だったのか 全てを費やし魂を粉にし 貴方に捧げた愛は、忠誠は 貴方の小指の先1つも動かさぬ程に無価値なものであったのか と 人間であれば不格好に泣きじゃくるのではないか そう思うほど 込み上げる悔しさと嘆きと、怒り、に (きっとあれが“絶望”というのでしょう) 私は己の心が、光たる位置より遠退き闇に踏みいる気配を感じました。 同時に父も同じように堕ちたのだと思うと 何故か、何故か笑っておりました 魔族の近寄る気配 落ちて震える蝶の死を 今か、今かと伺う蟻のようなさざめきに 全てを諦めた時でした 滲んだ視界に立っていたのはその方でした その方は、 「大丈夫か?」 とまず訪ねてきました そうして、隣に立つよく似た影に 「周りの殲滅を頼む」 と言ってから 「隊からはぐれたのだな、話せるか?」 と問うて来ました。 そうして続けざまに 「ああ、ゴルゾンの子だろう?」 と言い (私はてっきり、そこで見捨てられるかと思ったのです) 「知っているぞ、主天使の位を賜った時、主の御前で祝福されたろう。私はその時、兄と共に車輪の姿であったから、お前は私を知らないだろうがな」 と笑いました。 その兄と共に助けに来たと、なんの迷いもなく構えた剣で数十枚にも上る己の羽を、ばっさりと翼から切り離し 私の回りに降り積もらせると きらきらと輝く光の輪を作り出し、私の傷を癒し始めました
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