主よ、御許に近づかん

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主命ですか? と、僅かな期待を込めた私に その方は金の瞳を伏せて 「いや、私の独断だ」 と、小さな声で謝られました。 独断故に、兄にあたる天使と、兄弟格の天使しか連れてこられなかったと、 主命であればもっと早く、もっと沢山援軍を連れてこられたのに、と 悲しい声で 私に謝って下さいました 主命でもないのに 兄弟格とはいえ他の天使を動かすのに その方が頭を下げ声をあらげ 頼んで回ったのは火を見るより明らかで 笑いながら 「さぁ、帰ろう」 と己より大きな私の へし折れた手首を握る姿を見て 主命という期待を裏切られたのにも関わらず 私は 私はきっと 泣いていました 私は『神』に見捨てられたのでした いいえ、最初から 視界にすら入っていなかったのかもしれません それに気づいたあの日から 私の心は、神に対する絶望を常に称え 疑いという闇を住まわせたまま 螺曲がり歪んで傾いております ですが一つ 思うことがあるのです 沢山の人々を見守るために与えられた あの方の沢山の目の その内の一つは 私を映していて下さった あの方は仰られました 「主を愛している」 と あの方が愛する主であれば もう少し もう少しだけ 信じてみようと思いました 私を見ていて下さる (主は見ていて下さらぬとも) あの方が信じるというのなら (私は信じていなくとも) 私は もう少し 主を (いいえ、いいえ) 信じてみようと思いました (私は貴方を信じてる) 「私か?私の名は…」 主よ、御許に近づかん (わたしはあなたのそばにいたい)
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