はね、ひとかけら

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突然響いた音に、昼食後の休み時間にくつろいでいた生徒は勿論、教師までもが音の方向を見て驚愕した。 日常的に騒音をたてるルアかルチアナ、もしくはドジな蓮か唄が転んだのか、と予想して目を向けた者たちは、その音の発生源がタランチュラであったことに目を見開く。 狭い教室内で、接触を避けるためしまっていたはずの翼が 立ち上がった彼の背から生えていたことも周りを驚かせたが それよりも頭の翼も含め、彼の翼の悉くが大きく膨らみ、 彼の感情がひどく高ぶっているのを主張していた。 わずか数秒、静まり返った教室。 一番最初に口を開いたのは、紅亜と教室の隅で将棋を楽しんでいた巨躯であった。 「タランチュラ殿」 彼を“殿”付けで呼ぶのは学園でただ一人、鷹揚に構えて立ち上がったマスカレィドの声に、タランチュラはふうと小さく吐息をつくと、膨らんだ羽根を収めた。 「…悪ぃ」 そのまま何事もなかったかのように翼を広げた際に倒してしまった机を並べると、他の教師らと同じく固まったままの影二に歩み寄る。 「雪永先生、確か次の時間空いてますよね?」 「えっ…空いてるけど…」 口調はいつも通りに戻ったが、やけに平坦な抑揚と見下ろす視線の冷たさに影二は身構えた。 「俺、クッソみてえに頭痛いんで次の時間…三年の授業自習にしたいんですが…生徒らを見てるだけでいいんで教室にいてもらっていいですか」 問いかけつつ有無を言わさぬ雰囲気に飲まれ頷いたものの、お願いしますとだけ言って歩き出すタランチュラに影二は食い下がらなかった。 「ど、どーしたのさタランチュラぁ!アンタが前置きも無く授業を休むなんておっかしいよ!そりゃ、頭痛い日だってあるだろうけど…」 そこまでまくしたてて走り寄った影二だったが、ゆったりと振り向いたタランチュラの唇から吐息が緑の炎になって吐き出されるのをみて立ち止まる。 「…申しわけありません雪永先生…埋め合わせはします」 影二の位置からしか見えないが、ふっ、ふっと喋るたびに小さな炎が揺らめいて吐き出され消える。 見かねて歩み寄ってきたマスカレィドはその炎を見ると言い返そうと息を吸った影二を押しとどめた。
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