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闇の妖精によるチェンジリングによって学園の大多数の生徒と教師が偽物と入れ替わってしまった日。
どうにか無事であった生き残りたちは対策を兼ね一か所に身を寄せていた。
夜、それは睡眠や夢を操る闇の妖精らが時の神によって力を与えられる時間である。
教師たちの輪の中で、『学園の良心』という不名誉なあだ名を与えらた教師タランチュラ…と、瓜二つの顔をした天使は、
「夜通し私が警備しよう…なに、タランチュラと似ているのは容姿だけではない。兄弟そろって結界術が得意なのだ」
と表情一つ変えずに目を細めた。
「それに、真昼の猛禽の翼と太陽の眼差しを持つ弟と逆に…私は夜の闇に対して酷く強い」
夜の使徒たる梟の羽で隠された眼差しは、人を眠りに誘うラベンダーと同じ、深い深い紫色であった。
―アメトリン―
『わたしはむらさきのやみ
あなたはきんのほし』
(カラーイメージ:ゴッホの『夜のカフェテラス』)
男女分かれて眠りについたのは食堂で、天使は独り調理場に小さな明かりを持ち込んで本を読んでいた。
部屋の両端にはタランチュラの相棒たる盾のガーディアン(守護者)と、兄である彼の相棒たる盾のフォートレス(要塞)が阿吽の獅子さながらに睨みを利かせ浮いている。
「本を読むときの癖も同じなのですね」
タランチュラ先生も本を読むとき、耳の上に手をかけることがあるわ、と、ふいに駆けられた声にその紫の双瞼が上を向いて、もう一つ紫の双瞼と混じりあう。
「リリー家の者か」
よく知った、悪いのは口だけの天使と全く同じ声は、その紫の来訪者を「アメリア」とは呼ばず、姓で読んだ。
無意識に、タランチュラと同じように名で呼ばれ、少々馴れ馴れしい笑みで返されることを予想していたのだろう。
アメリアは短めの眉をしかめ天使を見つめた
「あれは昔私と同じで髪が長かったからな、その時分のクセだろう。
…見た目が似ているのに、他が違っていて気味が悪いか?」
「…いいえ」
間合いは肯定。
天使は、タランチュラに比べ白の多く混じった梟の羽を揺らして本にしおりを挟む。
「タランチュラは優しいであろう?」
「ええ、とても」
薄く張り付けたように笑った天使は、瞼を閉じて思案したかのように
「あれは他人に関わりすぎる。人の世の言葉で言えば“オセッカイ”とでもいうのか」
主に見離された戦闘天使らを救うと私が駆り出されたこと、指の数でも足りん、とため息を添えた。
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