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「…一度など、見離された軍にすら見捨てられた主天使を助けるなどと世迷い事を言ったわ」
冷たい淡々とした口調に、アメリアの唇が一瞬震えた。
脳裏を過ったのは、機械めいた巨体を持つ同期の、石榴石にも似た赤い邪眼であった。
「努力し、光に向かうものを見捨てるなど、あってはならぬと言い張って…助けたとて戦局を1ミリも動かさぬというのに」
一瞬間をおいて、紫の瞳が再度見開かれた。
「まして…地上の穢れし他種族にに肩入れし、誇り高き力を使うなど…気が触れているのか」
「…!」
「と、人の心に住まう一抹の悪も許さぬ苛烈な天使らなら言うであろうな。リリー家のように」
相変わらず、薄く張り付けた作り笑いをしながら、意地悪だったか?と謝って
「すまないな、私は弟のように表情豊かに話す機能は“搭載”されていない」
これでも精一杯笑っているつもりなのだ、と答えた。
そうして、アメリアに椅子を指差して言外に座れと伝える。
「クロリオン様はリリー家を知っているの?」
「天使は宝石と縁深い」
肯定を飛ばしての理由。この天使は、会話が飛ぶクセがあるようだった。
タランチュラと比較しても、驚くほどカジュアルな服装をした天使ークロリオンは、不釣り合いに上着の襟に止められたブローチを外しアメリアに手渡した。
「トパーズ…」
大粒のトパーズを銀の縁取りが飾り、目に似た装飾が囲む。
ひし形にカットされたガーネットが蔓に似た装飾に花のように置かれ、エメラルドの体を持つ蜂が羽を広げた姿で飾られていた
「タランチュラ先生のブローチは蜂の色が違った…」
「我ら兄弟は蜂の名前をつけられていてな…クロリオン・ロバトムは鮮やかな緑の蜂だが、タランチュラホークは濃紺…だから」
「サファイア…」
「そうだ」
きらきらと輝く大ぶりのブローチは、天使の身に着ける物にしては華美であったが、アメリアはその宝石に話しかけるように一つ一つ触れていく。
「私とタランチュラの階級は、他階級との区別をつけるためにトパーズを身に飾る。そういった時は大概他の種族との交渉の場であることが多いから、見栄えがいいように少々派手に作ってあるのだ。
加えて、私達は容姿がよく似ている為に、そういった場に揃って呼ばれることが多い」
人間の軍隊でも、背格好が同じ者を揃えて見栄えをよくしたりするだろう?というクロリオンの言葉に、視線を外さずアメリアは頷いた。
「だから並んで歩くことを考慮して揃いでブローチを作ったのだ」
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