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全ての石は天使の様々な階級で使われたものから原石や破片を集めたと説明し、天使たちが多様な宝石を扱っていることを示す。
と、アメリアの目が静かに見開かれ、ブローチの宝石を追っていた指先が止まった。
「…このガーネット…この一粒だけ…宝玉人の…それも」
クロリオンは、ひどく感情の薄い目の中で瞳だけを動かして
「昔、縁あってアウレリオに造ってもらった」
と呟き
「お前の父だろう」
と続けた。
震える指先をそのままに、動かぬアメリアを横目で見て、クロリオンは
「まあ話すことでもない」
と言って黙り込む。
数分の静寂。
「…教えて頂けますか」
俯いたまま、アメリアが静寂を破った。
クロリオンは、その梟の羽をわさりと動かして羽の隙間を広げると
「昔…」
と話し始めた。
ー…その時はジュビリー家との会談だった。
先程話したように私とタランチュラは揃いの出で立ちで会談を担当する天使に侍っていた。
家の周辺にいる数多の宝玉人に危害が加わらぬよう、またこちら側に配慮してくれたのだろう、会談はジュビリー家より遠く離れた教会で行われた。
…上層に居る者の会談など、絶好の暗殺の場だからな。
想定が想定通り、小規模な襲撃があったが、宝玉人に加え天使までもがいるのだ。被害が出るようなことはなかったが…その小さな悶着の中で私のブローチが欠けていたのだ。
私自身は全く気付いておらなんだがな。
そうして会談も終わり…会談担当の天使…名を出しても差し支えまい、ザフキエル様がお帰りになられ、タランチュラはそれに従い先に戻ったのだが…。
私は、この梟の羽と紫の瞳のせいだろうか、天使のくせに夜空が好きでな。
天界に居ては見ることの出来ぬ頭上の夜空を見ていたくて、許可を得て一人残ったのだ。
そうしていたら一人の幼い少年に声をかけられた。
見れば数人の護衛を連れており、宝玉人の何れかの家の…次期頭首なのだろうと思った。
そこで指摘されて初めて、私は己のブローチが欠けていることに気がついてな。
少年は護衛に止められるのも聞かず私に歩み寄り、羽が欲しいといった。
実際に見ているから分かるだろうが、私もタランチュラも翼は鳥より余程大きく、それに合わせ羽も大きい。風切り羽ともなれば数十センチにも及ぶ
…少年という生き物の心を引くには十分と言えよう
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