月下独白

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月下独白

※『お前』が誰かはご想像にお任せします 昔…ああ、そうだ ひどく昔 俺は天使達の部隊の副官だった。副官は二人いて、守りと癒しを主軸にする俺と、隊長の背に控えて武器を振るうもう一人とで隊を支えていたんだ。 隊長は、実力も人柄も優れた方で、俺はとても信頼していたんだ。 ある時、魔族から派手な奇襲を受けた。 隊は初っぱなから半壊、死者と負傷者が山積みで、隊長は俺に 『とにかく結界を支えろ、そうして救援が来るまで負傷者を守り抜け』 と、いった。まぁ妥当な判断だ 隊長と同僚の副官は迫り来る魔族に刃を震い、倒れた仲間を担いで俺の結界まで連れてくるのを繰り返した …ああ、ああ 守り通したさ 俺は背にした負傷者は、守り通したさ 背にした負傷者『は』…な 数歩だ 俺が盾を構えて結界を張った数歩先 たった数歩先で力尽きた仲間を 俺は助けられなかった 数歩先で殺される仲間を、助けられなかった 俺は背にした負傷者を守り通すため、魔族の猛攻を防ぐため たった一歩も、動けなかった 隊長が、魔族に飲まれて死んでいくのを 見ていることしか、できなかった 同僚が、嘆きのあまり堕天するのを 見ていることしか、できなかった 守り手ってのは そういうものだ いつだって、手の届く範囲しか守れない いつだって、自分だけが生き残る そういうものだ 少し湿っぽいなぁ キャラじゃねぇなぁ …何で笑ってるかって? 笑ってないと 泣いちまうからだよ なんて…なぁ? 冗談さ まぁ、そういうことは 幾度もあったよ 俺は守り手だから 俺はいつでも、生き残る だからそういうことは そうさ幾度も… 幾度もあったよ ガラじゃねぇ ガラじゃねぇなぁ 何でこんな話をしちまったんだ 俺が惨めなだけなのに 神の血(ワイン)なんか飲むんじゃなかったな それとも月が隠れてんのがいけねぇのかな それとも…お前の瞳の色が、同僚と同じだったからかな… 惨めだ、惨めだ 悲しいなぁ 俺はそんな俺でなんか居たくないのに さぁ、行った行った 酔っぱらいの世話なんざするもんじゃねぇ 泣き上戸のクソヤロウだ そんなんに手間なんざかけるんじゃねぇ 酔いは独りで冷ますもんだ なぁ なんでお前が そんな顔するんだ
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