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脳天に響く衝撃にタランチュラは羽根の下で目を僅かに細めた。
吹き飛ばされた体を止めるため岩を掴み飛び起きる。
慣性の法則に岩を掴んだ手が切り裂かれたが、そんなことには構っていられなかった。
飛び込んでくる殺気の弾丸に、思わず腕をクロスして身構え簡易的な結界を張るが、2mにも及ぶ巨体が振るう鉄塊ともいえる刃は易々と壁を貫通し、彼の体を再度宙に舞わせた
「がっ…!」
肺から絞り出された空気が声帯を振るわせる。四枚の翼を広げ空中に体を止めるが、刹那視界を埋め尽くしたのは銀の鎧。跳躍したマスカレィドの赤い瞳と視線がぶつかる。
「頼むぜ、センセ?」
先程からの肉弾戦の応酬に血が滲んだ唇が、小さく、小さく呟いた。
聞こえているのかいないのか、緩慢に隻腕が振り上げられ、次の瞬間タランチュラの首筋に衝撃が走る。
轟音
一瞬飛んだ記憶にふらふらと定まらぬ視線は、今度は一杯に地面を写し込む
空中から一気に地面に叩きつけられ、胸を打ったのだろう。息が出来ないらしく、褐色の翼の天使はぜえぜえと無様に急き込んだ。それでも、腕をつき立ち上がろうと顔をあげる。
半身を潰しながらも威嚇し飛び立とうとする蜂のように、彼は体を持ち上げようとした。
しかし
「あぐ…!!?」
それは叶わなかった。
彼の背、翼の中心を虫ピンのように、鈍く輝く銀のレガースが地面に縫い付ける。
「ま、マスカレィド…先…生…!!」
どっかりと手負いの蜂の背に足を置いた巨躯(きょく)は、覗き込むように体重を足にかける。みしみしと肋骨が悲鳴をあげ、タランチュラは大して吸い込めもしなかった酸素をさらに吐き出して大きくうめいた。
既に擦り切れてボロボロの手で地面を掴み、どうにか逃げ出そうともがくが、ただ地面に赤く血の線がつくばかりで意味を成さない。
「取り澄まし顔の座天使が、無様にのたうち回るサマはもっと見ていたいが…術に長けたその羽根が厄介だ…先に引き千切っておくか」
なに、どんな獣も食べる前には羽根や毛皮をむしるものだ、と付け加えてニヤニヤと笑う男を金色の目が憎々しげに見上げる
その視線に気づいた男は、途端に無表情になるとめんどくさそうに
「やれ」
と一言呟いた。
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