ミートボールしたかった

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鎧の体躯は小さく頷くと、握っていた羽を放り投げる。 次の動作への期待に、男が唇を舐めた刹那であった。 爛っと、金色の眼が見開かれ、追随するかのように赤い瞳が豪っと炎を称える。 震えるばかりであった翼が弾かれるように開き、剣を跳ねあげた 「マスカレィド先生!頼んだぜ!」 「承知!」 僅かに立ち上がった剣の柄を、歴然の隻腕が異様とも言える俊敏さで拾い上げる。 そうして飛燕の鋭さで手首を返すと、じゅうじゅうと煙を立ち上らせていた翼を貫いた。 肩にかけたマントが翻り、全身の力をかけ刃を振りかざすと、ねじ曲げられた空気が圧に吠える 「殺(シャア)っ!!」 つんざくような怒号に任せ投げられた剣は空気を割いて、操られた生徒を閉じ込めた結界に突き刺さった。 物理的力が、魔術を文字通り力業で打ち破る。 ヒビが煌めいて走り、一瞬音を響かせてガラスの破片のごとく結界は形を失った 「タランチュラ殿!」 「おうよ!!」 肩羽を失い三枚になった翼が広げられた。 剣に貫かれた羽が僅かに光り、羽毛が吹雪のように舞い上がり生徒らの回りに降り積もる 「やや禁じ手だが緊急事態だ、主もお許し下さるだろう!」 素早く十字を描いた指先に、いくつかの呪解を口に出して、タランチュラは吠えた 「特殊結界型フェザーサークル展開!魔術遮断型、スパイダーウェブ!」 その瞬間、地面に降り積もった羽毛は機敏に動き、地面に結界をしかける。 さらに、へし折られた羽から滴る血が羽を繋げ、地面に赤い蜘蛛の巣模様を描いた 「ちぃっ!」 男は小さく舌打ちすると、生徒らを再度支配下に置こうと手を振り上げた が 何かに気づいたように視線を揺るがすと、直ぐ様背後に飛びすさる。 その足元に降り落ちる影 「その巨躯で、その早さか…!」 憎しみを込めた視線の先、凄まじい素早さで間合いを積めたマスカレィドが、小さな虫を取り逃した少年に似たため息をついて、先程まで男がいた場所に拳を降り下ろしていた そうして、普段見せぬドロリとした殺気を称えた眼で男をみやると 「…戦いにおいて、隻腕で遅れを取ることはないが…羽虫を潰すには少々不便なようだ」 と一言告げて身を翻した。
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