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2  耳の奥でいろいろな音が反響する。高校の入学式後だからか、学校からそう離れていない場所はいつもよりざわめきが多い。雑多な音が混じって吐き気がする。気持ち悪い。知らない場所だからか、普段よりも幾分具合が悪い気がする。 ―――――――――チリン。 どこかで澄んだ鈴の音がした。その瞬間一瞬だけ耳の奥で渦巻いていた音が止み、ふっと気分が楽になった。鈴の音が消えると再び音が押し寄せてくる。 ――――――――――チリン。 白い路地の向こうから再び鈴の音が鳴る。まだ新しい制服を身につけた少年は、その音に惹かれるように路地へと足を踏み入れたーーーーー。 延々と続く白い風景。もうどれくらい同じ風景のなかを歩き続けているのだろう。変化の無い風景に視界さえおかしくなったように感じられる。聞こえる耳障りな音が頭の中で反響して鳴りやまない。 ―――――――――チリン。 意識が朦朧とする中、ひたすら音を頼りに倒れてしまいそうな体を動かす。脂汗で張り付くシャツが不快さを助長させる。意識を朦朧とさせながら少年は鈴の音に導かれるように重い足を進め続けた。人だけでなく生命の気配も音もしない空間は、無意識化で少年に本能的な恐怖を抱かせた。 ―――――――――――――チリン…… 段々と縋っていた鈴の音も遠くなっていく。残響だけを残して鳴りやんだ鈴の音の余韻を追うように角を曲がった先には、翠嵐な碧が広がっていた。吸い寄せられるようにふらつきながらもまっすぐに碧へと近づく。遠くからだと山の麓の森のように見えたそれは、ある屋敷に繁っている木々だった。生い茂った木々によって、強い日差しが遮られる。進む先に光が見えて、何も考えずにただひたすらそれに向かって足を動かした。 チリン。 何故か鈴がまた鳴った気がして。もう動けないと悲鳴を上げる体を引きずって、鬱蒼とした木々を抜けた。光が目を射す。真白に染まった視界に、何もわからなくなる。奇妙な浮遊感に自分の輪郭さえ曖昧なように感じた。じわりじわりと色が戻ってくる。 “あ……………” 瞬いた視界の先。咲き乱れる一本の桜の木。その木の下に木を見上げる人影を最後に、少年は意識を手放した。
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