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「………うん、これでいいだろう」 「すみません、ありがとうございます」 お礼を言って顔をあげるとじっと見つめる瞳と目が合った。その途端ふわりと微笑まれる。 「よく似合っているよ」 突然の褒め言葉に顔に再び熱が戻ってくる。 「お茶を入れたから縁側においで。水分補給をした方がいい」 そう言い残して男は先に部屋を出ていった。慌ててその背を追おうとして脱ぎ散らかした自分の服が目に入ったため、先に脱いだ服をたたみ、腕に抱えて先程の縁側へ行くと、男が座ってお茶を飲んでいた。 ―――――その姿を見てやはり綺麗だ、と思う。人の容姿を綺麗だなんて思ったのは初めてで、勝手にその姿を目で追ってしまう自分に戸惑ってしまう。そのままぼんやりしていると、視線に気づいたのか男がこちらを向こうとする。その美しい顔がこちらに向けられ、言葉を発する前に口を開いた。 「いろいろとご迷惑をかけてすみません」 勝手に家の敷地内に入った挙句、脱水症状から倒れ、介抱してもらった上に着物まで借りて。今更ながらたくさんの迷惑をかけた申し訳なさから下げた頭をあげられなくなった。そのままかたくなに頭を下げていると隣に座るように促され、そろそろと頭を上げて男と同じように庭先へ足を降ろして座る。お茶を勧められて一度は遠慮したものの、倒れたのだから水分は取った方がいいと言われ、湯呑みを受け取った。遠慮がちに一口含むと、適度に冷やされた喉ごしのいいお茶はすっと喉を通る。自分で思っていたよりも体は乾いていたらしく、一気に飲み干してしまう。湯呑みが空になるとすぐになみなみとまたお茶が入れられた。戸惑ったように隣を窺ってみても、返ってくるのは微笑だけだ。簡単なお礼を述べ、二杯目のお茶を飲む。冷たいお茶を二杯飲み干して、少し頭がすっきりした気がする。少し離れた隣を見ると、綺麗な男は変わらず緩く微笑んでいた。
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