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4
放課後の教室は昼休みと同じかそれ以上に騒がしく、耳だけでなく頭まで痛くなってくる。騒音から耳をそむけるように外に目を向けるが、まだ日が高い。長い時間外を歩くには少し日差しがきつそうだ。強く風が吹いて、 机の横にかかっていた紙袋がガサリと音を立てた。中にはこの間翠から借りた着物一式が入っている。ぼんやりと外を眺めていて、学校からもあの白い路地が見えることに気がついた。純粋な白が光を乱反射していて、キラキラ光っているかのようだった。暇つぶしに翠の家を探してみるも、どこにあるのかわからなかった。
“あぁ、あそこから間違って入って迷ったのか……”
先日自分のたどった道筋を目でたどっていると、知った姿を見つけた。
―――――――会ったのは一度だけ。けれど間違うはずがないという確信がある。
男のいる位置を大体測って、優都は鞄と紙袋をつかんで教室を飛び出した。
「ど、……して………」
自分の荒い息と歩く度にガサガサと鳴る紙袋がうるさい。纏っている和やかな雰囲気にもかかわらず、意外にも翠の足は速いようだ。優都に見えたのは翠の着物の端が角に消えていくところだけだった。慌てて角を曲がるも、どこにも翠の姿は見当たらなかった。着物を追ってひたすら走ってきたため、自分が今どこにいるのかもわからない。つまりは――――――
“…………また、迷子だ……”
ついこの間迷ったばかりなのに。考えなしの行動を後悔するも後の祭りだ。じっとしていても強い日差しと冷たい風に体力を奪われるため、とりあえず歩き出す。どこを見ても見たことのある同じ景色が続いているだけで違いがわからないので、何も考えずに気分次第で右へ左へと曲がっていくことにした。大丈夫だと言い聞かせながら進み続けるが、変わらない風景に少しずつ恐怖が募っていく。自然と早足になる。無意識に呼吸が浅く、速くなっていった。恐怖心に突き動かされるままに何度目かの角を曲がると、突然目の前に見覚えのある碧が現れた。いつの間にか、とても近いところまで来ていたらしい。知っている場所にたどり着いたことに安堵したためか、足から力が抜けると同時に、どっと疲れが押し寄せてきた。壁に寄り掛かってずるずるとしゃがみ込む。風にそよぐ碧をぼんやりと見上げる。こうして改めて見ると、とても立派な屋敷であることがわかる。
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