エースは、掴めなくて

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「おはようございます…」 「おはよ…って、瑠璃ひどい顔!クマ隠しきれてないじゃない!」 昨日の諸々が頭の中を駆け巡って一睡もできず、朝からフラフラだった。 死神みたいな私に声をかけてくれたのは、二個上の先輩・由実さん。 仕事のみならず色々な事を相談できる由実さんは、頼れるお姉さん的存在だ。 「由実さん、お昼に相談させてください…それでは。」 「うん、それじゃ…って、どこ行くのよ!そっちは別の部署でしょ!」 *** 待ち焦がれた昼休み、 社員食堂は今日も混み合っている。 四人掛けのテーブルを確保して、由実さんと向かい合わせに座った。 「で、どうしたのよ?何かあったのよね?」 席について早速、由実さんが聞いてきた。心配そうにこちらを見つめている。 「実は…」 しかし、すぐに私の声は女性のざわめきでかき消された。あちこちから黄色い歓声が沸き起こっている。 「何の騒ぎよ?」 由実さんの疑問はすぐに解決された。 社員食堂に『営業部のエース』が入ってきたのだ。 人と人の合間から、焦げ茶の緩いウェーブの髪が見え隠れする。その周辺は特に騒がしく、女性たちの甲高い声が私の耳を刺す。 「ああ、白川さんね。同じ部署なのに、久しぶりに見かけたわ。」 由実さんは納得した顔でランチに手をつけ始めた
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