修羅場は、穏やかで

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大森奏人は、小5の春にこのマンションに引っ越してきた。 「奏人は瑠璃ちゃんと同じ学年なの。ほら、挨拶なさい。」 母親に諭されて一歩前へと押し出される男の子。 「大森奏人です。よろしく。」 人見知りなのか、はたまた反抗期なのか。 彼の声には、突き放すような棘があった。 初対面でその態度は、正直ムカついた。 「今宮瑠璃です。よろしく、大森くん。」 正直、適当に挨拶して終わらせようと思った。 なのに― 「呼び方、奏人でいい。」 そう言った大森くん…いや、奏人は不器用に笑った。 さっきまで無愛想だったくせに、その笑顔はズルい。 春を運ぶ風が、開けっ放しのドアを通って柔らかに吹き込んできた。
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