1135人が本棚に入れています
本棚に追加
/738ページ
大森奏人は、小5の春にこのマンションに引っ越してきた。
「奏人は瑠璃ちゃんと同じ学年なの。ほら、挨拶なさい。」
母親に諭されて一歩前へと押し出される男の子。
「大森奏人です。よろしく。」
人見知りなのか、はたまた反抗期なのか。
彼の声には、突き放すような棘があった。
初対面でその態度は、正直ムカついた。
「今宮瑠璃です。よろしく、大森くん。」
正直、適当に挨拶して終わらせようと思った。
なのに―
「呼び方、奏人でいい。」
そう言った大森くん…いや、奏人は不器用に笑った。
さっきまで無愛想だったくせに、その笑顔はズルい。
春を運ぶ風が、開けっ放しのドアを通って柔らかに吹き込んできた。
最初のコメントを投稿しよう!