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天才
やっと正式契約を結び、多喜城FCの契約資料を見た清川は、雫を問いただした。
「今年5試合しか出てないけど、この『財満 信行』ってのは、まさかあの財満か?」
あの財満と監督が言ったのは、U-16日本代表選手としてワールドユースに出場し、日本をベスト4に導き、ベストイレブンにも選ばれた天才サッカー少年である。
Jリーグとの契約はせずに、スペインのクラブチームと契約を結んだという記事を数年前に雑誌で見た記憶が、清川にはあった。
しかし怪我に祟られ、その後は日本のメディアでも大きく取り上げられた事は無かったように思う。
「たぶん監督の言う、その財満選手です」
「驚いたな、こんなチームに居たのか……」
「監督! こんなチームって!」
「お、悪い。失言だった」
契約書に書かれた財満の年俸は数百万円。シーズンフル出場全勝したとしても一千万を超える程度の、経歴から考えれば微々たる金額だった。
「去年、補強の目玉として、リハビリ中と言うのを承知の上で財満選手を獲得したんです。地元では結構大きなニュースになったんですが……去年はシーズン終盤に復帰したものの、試合感が戻る前にシーズン終了。今年は開幕後に数試合活躍したものの、二度目の靭帯断裂で戦線離脱。今は自宅で療養中です」
元日本代表の森の加入もあって、スポンサーの打診は増えてはいるものの、台所事情は芳しくはない。
しかし、清川の脳裏に浮かんだ財満のプレーは、荒削りながらもこのチームの中心選手として申し分ないものだった。
「よし、とにかく会おう」
技術は申し分ないはずだ。あとは、心。
直接話しをしてみればそれはすぐに分かる。それは清川の持論だった。
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