プロローグ:夢の終わり、夢の続き

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 後半25分。 多喜城FCは二枚目のカードを切る。連戦で疲労の見えたブラジル人エース「アリオス」を下げ、サイドで勝負するタイプの攻撃的MF「山田芳裕(よしひろ)」を投入したのだ。  運動量を使って、サイドを切り裂き、中央でのワンタッチゴールを狙う戦術は、清彦監督が就任以来ずっと続けてきた戦術。つまり攻撃のスイッチが入ったら押して行けという監督からのメッセージ。  相手のフリースローを、元日本代表ボランチの森 (はじめ)がキープする。ルックアップした先にはいくつかのコースが頭の中に描かれていた。  サイドの山田、逆サイドの石元、そして真ん中のエース財満(ざいまん)。彼は右十字靭帯断裂(みぎじゅうじじんたいだんれつ)の大手術から復帰したばかり。本来なら後半のこの時間にピッチに居られる状況ではない、ハーフタイムの直訴により今もこの場に立っては居たが、脚の状況はギリギリだった。  それでも訳あり元日本代表トリオがそれぞれの考えの元、三方向へと一斉に走りだす。 「ヨシヒロっ」  森が選択したのは、後半から入った元気のある山田だった。  山田は容易く足元にボールを収める。「終わった選手、ポンコツ、下のカテゴリなら通用するかも」等と散々に言われていた山田だったが、ボールを扱う基本技術はまだまだトップクラスだった。  ボールはそこで一度落ち着く。  石元には相手DFがしっかり付いていた。パスを受けられる状況にあるのは財満しか居なかったが、ボールを受けたとしても、彼が蹴れるコースにはGKが鎮座していた。 「はめられたようだよ、森クン……」  パスコースを限定させて、出した所を奪うのはサッカーの常套手段だった、ゆっくりドリブルでボールを前に運びながら、山田はコースの開く隙を伺う。  石元に付いた2枚のDFをかすめるように、攻守ともにそこそこ(こな)す、運動量だけが飛び抜けたバランサー福石がものすごい勢いで走り抜けたのはその時だった。  相手DFはさすがに放っておくわけにもいかず、一人が福石のマークとして引きずられていった。
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